「プロダクト・レッド・オーガニゼーション (The Product-Led Organization)」を読んだ.プロダクト主導型にプロダクトを伸ばしていくためのプラクティスを学べてとても刺激になった.僕自身は直近3年半ほど技術講師として仕事をしていて,前職などで携わってきた「プロダクト開発(BtoB / BtoC)」の現場から長く離れていることもあり,また戻りたくなった.本書は翻訳者である id:ykmc に献本をしてもらった.書評記事を書くのが遅れてしまって申し訳ない!そして,友人である 横道稔
の名前が表紙に載っていて素直に嬉しかった.出版おめでとう👏
目次
本書を読んで素晴らしく感じたのは,ある意味「勘」や「暗黙知」に依存しやすいプロダクト開発に対して,アプローチやベストプラクティスをうまく言語化している点だった.以下の目次を見てもわかる通り,幅広いトピックが紹介されている.また理論的で網羅的な一冊かと言うとそうではなく,Pendo(ペンド)というプラットフォームの創業者が執筆した本であるため「ノウハウ集」という側面も強く,より生々しく,実践的に読めるようになっている.また本書の冒頭には「戦術的なガイドである」とも書いてあって,その通りだと思った.
- PART 1「データを活用して優れたプロダクトをつくる」
- CHAPTER 1 : 終わりを思い描くことから始める
- CHAPTER 2 : 測るもので人は変わる
- CHAPTER 3 : 顧客データをインサイトに変える
- CHAPTER 4 : 感情の測り方
- PART 2「プロダクトは顧客体験の中心にある」
- CHAPTER 5 : プロダクト主導型の世界におけるマーケティング
- CHAPTER 6 : ユーザーを顧客に変える
- CHAPTER 7 : オンボーディングでスタートダッシュを決める
- CHAPTER 8 : 価値をもたらす
- CHAPTER 9 : 顧客のセルフサービス
- CHAPTER 10 : 契約更新と拡大:生涯顧客を作る
- PART 3「プロダクトデリバリーの新たな方法」
- CHAPTER 11 : プロダクト主導型デザイン
- CHAPTER 12 : リリース、採用の促進
- CHAPTER 13 : 手放すというアート
- CHAPTER 14 : ユーザーが求めるもの
- CHAPTER 15 : ダイナミックなロードマップ
- CHAPTER 16 : モダンなプロダクトチームを作る
- CHAPTER 17 : 行動への呼びかけ
そして fukabori.fm では,翻訳者である id:ykmc 自身の本書解説もあるため,読みながら聞くと相乗効果があると思う.
終わりを思い描くことから始める
「CHAPTER 1」は改めて考えさせられる機会になった.プロダクトに新機能を追加するときには当然何かしら目的があり,その目的から逆算していく必要がある.新機能に対するペルソナを洗い出し,解決するべき課題を明確にし,効果が得られたかどうかを判断できるようにする.聞くと当たり前のように感じるけど,実体験としてできていないことも多々ある(誰しもあるよね?).
また本書に載っている Amazon の「Working Backwards」は仕事柄とても馴染みがあるし,目標設定に使う SMART もよく活用している.逆に「Jobs to Be Done」や「共感マップ」など,知らなかったフレームワークなども載っていた.本書を通して,聞いたことがなかった用語も多くあって気付きが多かった.
- SMART
- Specific(具体的である)
- Measurable(計測可能である)
- Achievable(達成可能である)
- Related(関連性がある)
- Time-bound(時間的制約がある)
なお,チャプター名の「終わりを思い描くことから始める」は「7つの習慣」の「第2の習慣」にインスパイアされてる気がする.好きな本なので序盤から謎の親近感を持ってしまった😃
測る
本書全体(特に「CHAPTER 2-4」)ではメトリクスの話が出てくる.プロダクトにおける「ビジネスメトリクス」もあれば「運用メトリクス」もあるし,メトリクスの変化が起きるタイミングという観点から「先行指標」と「遅行指標」という言葉もあり,聞き馴染みがなく参考になった.特に「運用メトリクス」としては,プロダクトの利用状況や粘着度や機能ごとの定着率なども説明されていた.「粘着度(原著だと stickiness?)」という言葉も聞き馴染みがなかったけど,本書にも載っている通り,プロダクトを使うことが習慣化している指標と言える.計算式としては DAU (Daily Active Users) / MAU (Monthly Active Users)
となる.確かに実体験としても日々当たり前のように使ってるプロダクトはある!
また現在の仕事でもよく使う CSAT (Customer Satisfaction Score) を5段階評価で取得したり,「このプロダクトを同僚に薦める可能性はどれくらいありますか?」と言った感情を評価する NPS (Net Promoter Score) なども紹介されている.なお,5段階評価のことを「リッカート尺度」と呼ぶことを知らなかった😇勉強になる...!
知ってもらう
「CHAPTER 5-6」を読むと,プロダクト自体を顧客体験の軸として「どのようにプロダクトを知ってもらうか」というマーケティング観点のプラクティスを学ぶことができる.本書では Netflix や Zoom の例が載ってたりもするけど,特に営業などもされずに気付いたら普段から使っているサービスは多くある.「プロダクトは新しいマーケティングである」という謎めいた名言も載っているけど,ようするにレビューやリファラルという仕組みをプロダクトの中で実現する必要性があると言える.
また 「CHAPTER 7」を読むと「アハ・モーメント」という言葉が出てくる.ようするに「顧客がプロダクトの明確な価値を認識して定着するタイミング」のような意味で,例えば Twitter だと 30人のユーザーをフォローする
と書いてあったりする.過去に似たことを考えてファネル分析をしたこともあって言葉を知れて良かった.今の仕事でも「アハ・モーメント」を考えたいところもあってさっそく実践してみようと思う.
未来を計画する
「CHAPTER 15」は「ロードマップ」に関する解説があった.ロードマップがあると「優先順位(優先度じゃないよ🔥)」を明確にすることができて,顧客などとコミュニケーションが取りやすくなる.とは言え,闇雲に作るのではなく,ビジネス全体のビジョンと整合性を取りつつ,評価メトリクスなども整理をしないと意味がなく,それこそプロダクトマネージャーの役割であると書いてある.また本書にも書いてある通り,ロードマップは常に変更される可能性がある点に注意をするべきだし,ロードマップの計画プロセスに参加していないエンジニアに対しては「ある種の誓いをさせること」になってしまうのは "あるある" だと思う.それでも全員が計画プロセスに参加することは難しいだろうし,やはりビジネス全体のビジョンやフィードバックに紐付いていて,納得感を持てることが重要なんだと思う.
プロダクト Ops
僕には馴染みがなかった「プロダクト Ops」という言葉が最後に出てきた.実際に企業によっては Product Operations というポジションもあるらしく,今後注目してみようと思った.役割も細部はバラバラだと思うけど,本書にベン図が載っている「プロダクト / エンジニアリング / カスタマーサクセス」の共通部分という意味では専門性が求められそう.特に「プロダクト Ops」によって実現する項目として「最適化」があり,その中に「プロダクト体験の最適化に責任を追う」と書いてあってイメージできた.また Pendo のサイトに用語集としても載っていた.
- 最適化
- 整合(アラインメント)
- フィードバックループ
- インフラとレポート
誤植
読みながら気付いたものをまとめておく.現状だとサポートページはなさそうだった.
- P.8 :
データインフォームド
を索引に追加してもらえると嬉しい(誤植ではないけど) - P.138 :
プロダクトのにおける
→プロダクトにおける
- P.238, 239 :
ランクづけ
とランク付け
で表記揺れになっている
まとめ
「プロダクト・レッド・オーガニゼーション (The Product-Led Organization)」を読んだ.僕自身,直近は「プロダクト開発」に携わってないということもあり以下の2点を意識しながら読んだ.プロダクト主導型組織を目指すことの必要性とプラクティスを学ぶことができて良かった.そして何よりも読んでいて刺激を受けた⚡でも実際に実践しようとすると困難もありそうだとは思った.
- 過去を振り返りながら読む
- 正確にはプロダクトではなくとも現在に置き換えながら読む
また,正確に当てはまることはなくとも「プロダクト」の定義を拡大解釈して読んだことにも意味があったと思う.例えば,仕事で取り扱う e-Learning プラットフォームや研修コンテンツ自体もある意味では「プロダクト」かもしれないし,kakakakakku blog というメディア自体や極論では自分自身もある意味では「プロダクト」かもしれない.アンケートなどのフィードバックを取得していても活用できていなかったり,組織がサイロ化して部分最適になっていることもあると思う.そして,データとメトリクスに改めて着目し「データドリブン」を超えて「データインフォームド(データを参考にしつつ定性情報も含めて総合的に判断するアプローチ)」に考えるべき点にも多く気付くことができた.
まとめると,プロダクト開発の現場にまた戻りたくなる良書だった!