2020年3月に出版された「みんなでアジャイル」を読んだ.本書はアジャイルを「ムーブメント」と位置付けて,アジャイルの魅力を紐解く内容になっている.具体的なアジャイルフレームワークに特化せず,顧客中心主義やコラボレーションなど,アジャイルなスタイルに興味があれば読者層に入るため,エンジニアに限らず,営業やマーケティングや人事など,あらゆる立場でも読める.なお,1章に書いてある通り,アジャイルな「マインドセット」は重要だけど,思考だけではなく,あえて「ムーブメント」という言葉を選ばれているのも特徴的に感じた.
なお,本書は著者の吉羽さん (@ryuzee) から献本をしていただいた.ありがとうございます!!!
みんなでアジャイル ―変化に対応できる顧客中心組織のつくりかた
- 作者:Matt LeMay
- 発売日: 2020/03/19
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
まえがき と 謝辞
まず,本書は及川さん (@takoratta) の「まえがき」からはじまる.「実はアジャイル推進論者ではない」という立場から語られる本書の魅力は,否定的な論調からのコントラストがあり,読んでいて惹き込まれた.さらに原著者の「謝辞」も1章の前にある.原著者自身が今までチームに指摘してきたことを自分自身もやってしまっていることに気付いたという驚きが書かれている.だからこそ,原著者にとっても執筆プロセス自体が「アジャイルの旅」だったという文章も重く感じられた.読み飛ばしがちな部分だけど,本書の魅力は「まえがき」と「謝辞」からはじまっていることを伝えたい.
目次
本書は「アジャイルムーブメント」を「原則(なぜ)」と「プラクティス(どうやって)」と「現実の成果(何を)」を軸に紐解いていく.特に 3章 から 6章 は「組織重力の法則」と呼ばれるアンチパターンの解説があり,原則やプラクティスを理解した上で,どう現実の成果を見極めていくか?という部分にフォーカスされている.とは言え,アジャイル関連の書籍はどれを読んでも抽象度が高くなる.何かしら自分に関係するチームを想像しながら読み進めるのが良いと思う.
- 1章 : 「アジャイル」とは何か?なぜ重要なのか?
- 2章 : 自分たちの北極星を見つける
- 3章 : 顧客から始めるのがアジャイル
- 4章 : 早期から頻繁にコラボレーションするのがアジャイル
- 5章 : 不確実性を計画するのがアジャイル
- 6章 : 3つの原則に従い、速くて柔軟で顧客第一なのがアジャイル
- 7章 : あなたのアジャイルプレイブック
組織重力の第1法則
3章に載っている「組織重力の第1法則」は「組織の個人は日々の責任やインセンティブと整合性がなければ,顧客と向き合う仕事を避ける」という法則だった.個人的にも顧客中心主義は理解しているけど,気を抜くと顧客目線から飛んだ意思決定をしていることに気付くという体験もあり,改めて顧客目線で考え続けることの大切さを感じられる内容だった.ソフトウェア開発に限らず,どんな仕事にも顧客はいるため,必要に応じて読み替えながら考えると良さそう.
そして,3章では「アジャイルソフトウェア開発宣言」で提唱された「包括的なドキュメントよりも動くソフトウェアを」という内容の具体例が載っている.「ソフトウェアプロダクト」に限らず「マーケティングキャンペーン」や「書籍」や「家の設計」などがあり,最後に「プレゼンテーション」が載っている.「包括的なドキュメント」は「文字による概要」で「動くソフトウェア」は「ラフなスライド」とある.
僕自身,技術講師という仕事柄,日々スライドを作り,プレゼンテーションをしているため,とても刺さった.例えば,同僚に対するプレゼンテーションを作るときの MVP (Minimum Viable Product) はアウトライン(箇条書き)ではなく,ラフなスライドになる.実際にスライドを作って,練習をしたり,ドライランをすれば繰り返し学習できる.目的とズレたプレゼンテーションになるリスクも抑えられる.実体験からも「確かに!」と言える内容だった.「動くソフトウェア」を「プレゼンテーション」で例えた内容は気付きになった.
組織重力の第2法則
4章に載っている「組織重力の第2法則」は「組織における個人は,自分のチームやサイロの心地良さの中で1番簡単な作業を優先する」という法則で,読みながら「それな!」と叫んでしまったし,付箋にも大きく「それな!」と書いてしまった(笑)それほど実体験もある内容だった.ようするに,他のチームにフィードバックをもらえば,より良くなることは理解しているし,もしかしたら根本からひっくり返される可能性もある.だからこそ「自分のチームやサイロの外に出るのは危険性が高い」という判断をしてしまう.また「重力」という言葉も的を得ているように感じた.
そして,4章では「報告と批評の文化から協調的な文化」という内容に進んでいく.有名な Spotify モデルの紹介もあれば,アジャイルゾーン(オープンな場)で意思決定をする Tips も載っている(以下に箇条書きにして載せた).そのために「コラボレーション(つながり)」を大切にし,現実を見極めていく.そのために本書では必ず「良い方向に進んでいる兆候」と「悪い方向に進んでいる兆候」が載っている.
- 何を決めるかを決める
- タイムボックスの練習をする
- 期待を明確にする
- 会議と呼ばない
- 「同じ場所にいる」ことと「同期して行う」ことを区別する
WHPI (Why / How / Prototype / Iterate)
6章に載っている「アジャイルプラクティスの探求」の中で WHPI (Why / How / Prototype / Iterate) と呼ばれるプラクティスが紹介されていた.フーピーと発音する.顧客のニーズを明確に理解して進められているか?を問うフレームワークと表現することができる.今までアジャイル関連の書籍を多く読んでいると思うけど,WHPI ははじめて聞いた.本書にも書いてある通り,ソフトウェアに限らず適用できる.また Why の部分も変わる可能性があるため,全てのプロセスを Iterate するという注意事項なども書いてある.
- Why(なぜ)
- How(どうやって)
- Prototype(プロトタイプ)
- Iterate(繰り返す)
まとめ
本書は「アジャイルムーブメント」を通して「価値を顧客に届けられる組織になること」をうまく言語化している.さらにエンジニアに限らず,営業やマーケティングや人事など,あらゆる立場でも読める内容になっている点は,今まで読んできたアジャイル関連の書籍と違う.とは言え,エンジニア目線だと関連書籍も多くあるため,合わせて読むと良さそう.例えば「レガシーコードからの脱却」や「Effective DevOps」や「Fearless Change」や「アジャイルコーチング」など.あと,最後の謝辞に親友の @ykmc09 の名前が載っていて,嬉しくなった!
- 変更可能なコードを書こう /「レガシーコードからの脱却」を読んだ - kakakakakku blog
- 文化である DevOps の誤解を紐解こう /「Effective DevOps」を読んだ - kakakakakku blog
みんなでアジャイル ―変化に対応できる顧客中心組織のつくりかた
- 作者:Matt LeMay
- 発売日: 2020/03/19
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
誤植
全くなかったと思う.O'Reilly のサイトにも正誤表は出ていなかった.今まで吉羽さん (@ryuzee) の本を多く読んでいるけど,どれも読みやすく,誤植もなく,出版のクオリティに驚くばかり.
非常に細かいけど,2点気になった点を残しておく.
- P.xxiv :
現実の成果
と現実での成果
は細かいけど表記揺れのように感じた - P.157 : Your Agile Playbook Template に載っている
喫緊
は一瞬読めなかった(意図的に緊急
と翻訳しなかったんだとは思うけど)