2006年に出版された「エンジニアのための時間管理術」を2009年(大学院時代)にはじめて読んだ.本書はエンジニアを対象にした書籍であり,その後 SIer でシステムエンジニアとして働きながら何度も読み直した.もともとプロダクティビティを追求することに興味があり,今も続くスタイルの一部は本書から学んだことを参考にしている.それほどに「個人的に影響を受けた1冊」と言える.今までブログに書評記事を書いてなく,最近また読み直す機会があったため,書評記事を書くことにした.
本書のタイトルは「エンジニアのための」と書いてあるけど,原著のタイトルは「Time Management for System Administrators」となり,明確に「システム管理者」を対象に書かれている.本書の冒頭にも「プログラマを対象としていない」と書かれている.とは言え,現在では文化面も技術面も変化し,DevOps や SRE という言葉も浸透した.システム管理者に限らず,エンジニアなら誰でも読める内容になっていると思う.2006年に出版されたこともあり,当然ながら技術的なたとえ話に古さを感じたりするため,そのあたりは読み替えながら読む.
目次
- 1章「タイムマネジメントの原則」
- 2章「集中と割り込み」
- 3章「ルーチン」
- 4章「サイクルシステム」
- 5章「サイクルシステム : 作業リストとスケジュール」
- 6章「サイクルシステム : カレンダーの管理」
- 7章「サイクルシステム : 人生の目標」
- 8章「優先順位」
- 9章「ストレスの管理」
- 10章「電子メールの管理」
- 11章「時間の浪費」
- 12章「文書化」
- 13章「自動化」
1章「タイムマネジメントの原則」
1章「タイムマネジメントの原則」では,6種類の原則が載っている.
- タイムマネジメント情報を1つの「データベース」にまとめる
- 能力は重要な作業のために温存しておく
- 日課を定め,それらに従う
- 習慣やモットーを養う
- 「プロジェクトタイム」の間は集中力を保つ
- 日常生活の管理にも,仕事で使用するのと同じツールを使用する
例えば,最初に載っている原則の「データベース」の例として PDA (Personal Digital Assistant) と PAA (Personal Analog Assistant) が紹介されている.Palm など時代を感じる内容だけど,現在ならスマホを使えば良いし,Trello や Google Calendar など,ツールも多くある.アナログ派ならメモ帳を持ち歩くのも良いと思う.他にも「習慣化の話」や「頭の中を整理する必要性」など,今でも重要な原則と言える.
4章「サイクルシステム」
4章「サイクルシステム」を読むと,原著者が考えた「タイムマネジメント戦略」を学べる.大前提として「自分の記憶力を信用するな!」というメッセージがあり,とても共感できる.実際には,先ほど載せた PDA or PAA で以下の4点を管理すると書いてある.
- 365日分の作業リスト(ほぼ日手帳のような?)
- 今日のスケジュール
- 約束のカレンダー
- メモ(人生目標を書いたりする)
そして,毎日を以下のサイクルで繰り返す.
- 今日のスケジュールを作成する
- 今日の作業リストを作成する
- 優先順位を付け,スケジュールを調整する
- 予定に取り組む
- 1日の終わり
- 会社を出る
- 繰り返す
「サイクルシステム」は完璧にタイムマネジメントをしながら記録を残すため,いざ試そうとすると比較的重いと思う.昔に試したこともあったけど,現在は守破離のように自分なりに取捨選択している.例えば,朝起きたらすぐに作業リストを作ったり,割り込みが入ったら優先順位を入れ替えたりするのは,今でも実践している.数年前からは朝ではなく,寝る前に翌日の作業リストを作っていたりもする.
7章「サイクルシステム:人生の目標」
「サイクルシステム」の素晴らしい点は,構成要素に「人生目標」が入っていることで,目標を立てないと「単純に作業をうまく進められるようになるだけ」になってしまう.7章「サイクルシステム : 人生の目標」を読むと,以下のように具体的な目標を立てる必要性を学べる.
- "何を" 実現したいのか
- "いつ" それを実現したいのか
目標の粒度としては,書籍「How to Get Control of Your Time and Your Life」を引用して,以下のような表が載っている.「仕事の目標」と「プライベートの目標」をどちらも立てる点がとても良い.
- 短期(1ヶ月)
- 中期(1年)
- 長期(5年)
個人的には2014年頃から本格的に「人生目標」を運用していて,粒度は以下のように変えている.
- 短期(3ヶ月)
- 中期(1年)
- 長期(2年)
基本的に非公開だけど「中期(1年)目標」の一部はブログにも載せている(意図的に抽象的に書いている).「長期(2年)目標」に関しては,例えば 2017年 から「技術支援を仕事にする or 講師になる」という目標があり,実際に現在の仕事は技術講師だし,その前はプログラミング講師の仕事も経験した.さらに2年以上も継続している「ブログメンタリング活動」も「習慣化を支援すること」を強く意識している.よって長期目標をある程度は達成できているように思うし,今後も目標は運用し続けていく.
- 2019年の振り返りと2020年の抱負 - kakakakakku blog
- 2018年の振り返りと2019年の抱負 - kakakakakku blog
- 2017年の振り返りと2018年の抱負 - kakakakakku blog
11章「時間の浪費」
プロダクティビティを追求することに興味があるため,11章「時間の浪費」と類似した書籍も読んでいるけど,時間を捻出するために「時間の浪費を減らす」ことは本当に重要だと思う.何を「時間の浪費」と定義するかは価値観にもよるけど,本書だと「費やした時間に対する利益率が低いこと」と書かれている.具体的に以下の項目に興味があれば(自覚症状があれば)読んでみると良さそう.とは言え,項目だけだとミスリードも起きるため,本書を読んでもらえればと!ただ「時間の浪費」を意識しすぎているからこそ,よく「せっかちすぎる」と揶揄される.
- 一般的な時間の浪費
- 作業リストのくだらない項目
- 大量のメーリングリスト
- 掲示板や Usenet
- チャットシステム
- オフィスへの「立ち寄り」
- セールスと人材スカウト業者
- 手動プロセス
- オフィスでの交流
- 無駄な会議
- レンタルビデオで迷う
- つまらない番組を観ない
- 洗濯と掃除
- ハードウェアとソフトウェアのインストール
特徴的な項目としては「レンタルビデオで迷う」という「時間の浪費」が挙げられる.ビデオショップで何を借りようか迷う時間が無駄であるという話で,2006年に出版された書籍だけど,今でも動画配信サービスで同じことが起きる.僕自身は Amazon Prime Video でダラダラ迷わないように「Trello に観る予定の作品名をチケット化」している.まさに本書から学んだ Tips と言える.さらに Trello の Checklist を使ってエピソードの進捗まで管理してる話はポッドキャストでも話した.
13章「自動化」
エンジニアを対象にした本書だからこそ,13章「自動化」もある.「自動化をするべきか見極める方法」や「自動化のステップ」など,一般的に参考になる内容から,Shell の alias
や ~/. ssh/config
や Makefile
など,もともと対象だった「システム管理者」のためになる内容も載っている.このあたりは技術面の変化もあるため,参考になるものもあれば,今ならもっと便利なツールがあったりもする.
まとめ
2009年から何度も読み直している「エンジニアのための時間管理術」の書評記事を今さらながら書いた.プロダクティビティ関連の本は多くあるけど,本書はエンジニアを対象にした書籍となる.たとえ話などは古さを感じる面もあるけど,2020年になった今でも読める.リモートワークになりタイムマネジメントに悩んでいるという相談を受けることもあり,参考になる1冊だと思う.全ての章を紹介していないため,興味があったら読んでみてもらえればと!仕事も家庭環境も日々変わるけど,定期的に習慣を見直して,タイムマネジメントを楽しもう!